Jin's Report 2009

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初戦

第1戦 9月5日

【移動距離230マイル/約368km】
“Magic Valley Stampede” Filer, Idaho (PRCA)
“マジック・ヴァレー・スタンピード”
アイダホ州、ファイラー

今年の初戦を迎えるまでが、長かった。
こんなに長くなるとは正直思っていなかったが、とにかく『ロデオ』に戻れる喜びは、なにものにも代えがたい。

ユタに戻ってきてからというもの、時差ボケにやられた。昼間寝て、また夜寝ても午前3時には目が覚めてしまう。そうかと思うと、次の日に起きるのは午後1時。この2週間体調を整える、こちらの生活に身体を慣れさせることに気を使った。
移動に使うホンダ・プレリュードは約10ヶ月もの間、黙って私を待ってくれていた。ナンバー・プレートの更新のために排ガスの規制検査と、いわゆる車検を受けたのだが、初めてなんの問題もなく一発でパスした。そして、その2日後エンジン内の点火装置に故障が見つかった。部品を取り寄せて、修理するまで2日かかるといわれたが、週末にはロデオがある。それまでには直る、といわれてディーラーに預けたが、次の日電話がかかってきて、部品の到着は土曜日、直るのも早くて土曜日、とのことだった。
「なんてこった…」その土曜日が初戦だ。

練習仲間のTravis Attkinson(トラビス・アトキンソン)に電話したが、彼はファイラーにはエントリーしていなかった。同じ日、Alex Duddley(アレックス・ダドリー)から電話がかかってきて、彼は土曜日ファイラー、日曜日エヴァンストンと私と全く同じスケジュールであると教えてくれた。
「その2日間とも、一緒に連れてってもらえないか?」
「なんの問題もないよ。親父と一緒に行くけど、それでよければ」
“渡りに船”とはこのことだ。ありがたく世話になることにした。

当日。厚く大きな雲が空を隠している。わずかな隙間から陽の光が差している。嵐になるかもしれないという天気予報だった。午後3時過ぎに待ち合わせ、I-15を北へ。アイダホに入ってからI-84を北西へ。と書いたが、途中私もアレックスも寝てしまった(笑)。気がついたら、ツイン・フォールズの手前で、ファイラーはもうすぐだった。
ロデオ開始は7時半。会場に着いたのは7時過ぎ。エントリー・フィーを払いにオフィスへ行き220ドルを払う。小さな町のロデオにしては賞金額が高い。すぐにブルを探しに行った。私のブルはSankey Rodeo Company(サンキー・ロデオ・カンパニー)のG110 Wild Bill(ワイルド・ビル)。赤茶色の太目のブルだ。それほど小さくもなく、ちょうどいいサイズかもしれない。

2009-9-5

ベアバックが始まった。私も一通りの準備を終えてから、ストレッチを始めた。ゆっくりと時間をかけた。ほかの種目が行われている間、ほとんど見なかった。ロデオ・アナウンサーの声を聞いていると、いくつかの種目でワールド・チャンピオンに輝いた選手が来ていた。ティーム・ローピングのヒーラーでMike Beers(マイク・ビアーズ)、オールラウンドのTrevor Brazile(トレヴァー・ブラズィル)、バレル・レースのLindsay Seas(リンズィ・シアーズ)。サンキーのストックはもともとベアバックとサドルブロンコに定評がある。この日もNFRに出場した暴れ馬たちが顔を揃えていて、それに8秒乗れた選手は高得点をたたき出していた。

ブルライディングを残して、すべての種目が終わった。バレル・レースに使われたバレルが片付けられていく。ロデオ・アナウンサーが観客を煽る。ほぼ満席のスタンドが沸く。いよいよだ。
シュートの中にいるワイルド・ビルを見下ろしながら、身体をほぐす。やたらとのどが渇く。ボトルの水を何度も口にするが、すぐに額から汗へと流れていった。緊張しているか、な?! 確かに…。なにしろ昨年10月以来の試合だ。いったんシュートから離れた。夜空には満月に近い月が顔を見せていた。素直に美しかった。月を見て、少し落ち着いた。

アレックスが最初だった。この日の時点で、彼は私たちが所属するサーキットのトップ12に名を連ねている。来月行われるサーキット・ファイナルズに出場することは、まず間違いない。その彼が、2秒ほどであっさり振り切られた。続いて乗る選手も次々に落とされて行く。私の出番は最後だったが、その前の全員が沈んだ。ブルの圧勝だった。
観客も興奮しているのがわかった。ロープを左手に巻きつけるときの歓声がすごい。
出る。ワイルド・ビルは大きく出て、2度目のジャンプで私の体勢は崩された。右腕が後ろに流れている。3度目に蹴りあがった後ろ足で大きく振られてふっとんだ。飛ばされた、というのがその印象だ。着地して、走りながら振り向くと、最悪なことに彼と目が合った。「ヤバい!」と思っている暇はない。彼は、誰が自分の背中に乗っていたかを知っている。私めがけて突進してくる。私は一目散に逃げる。ブルファイターが3人いて、そのうちの1人が、「ここ!」というタイミングで彼の注意をそらしてくれた。

シュート裏に戻り、ストック・コントラクターのIke Sankey(アイク・サンキー)に礼をいい、動画を取ってくれた少年二人にも礼をいい、引き揚げた。ギアをしまい、着替え、車に戻った。
「Well, tomorrow is another day.(あえて訳すなら“明日は明日の風が吹く”といったところか)」と、アメリカ陸軍の軍人として5度も来日の経験があるアレックスの父親に言われた。今日は今日、明日の試合に向けて切り替えろ、ということだ。
「Yes, sir.」そう答えるしかなかった。
すぐに8秒乗れるほど、この世界も甘くはない。練習不足は否めない。『感覚』を取り戻すまでに時間がかかるのはわかっている。が、やはり悔しい…。矛先は我に向けるしかなく、いらだつ。

『ヒザで乗る』ことを忘れていなかったか?
骨盤を入れて、丹田に力を入れていたか?
肩甲骨を寄せて、胸をちゃんと張っていたか?
左腕の引きは十分だったか?
アゴは引けていたか?
出るその瞬間、リラックスしていたか?
切り替えるには、もう少し時間が必要だ。

アリーナの向こうから聞こえる、遊園地で遊ぶ子供たちの歓声がむなしかった。
私とアレックスを乗せて、彼の父親がソルトレイクへ向けて車をすべらせた。
あの月は、もう雲の向こう側へ顔を隠していた。

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