Jin's Report 2011

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甘さ

第5戦 6月16日

【移動距離42.3マイル/約67.7km】
“Strawberry Days”Pleasant Grove, UT. (PRCA)
“ストロベリー・デイズ”
ユタ州 プリーザント・グローブ

試合開始は8時だが、夕方には再びショーンの元へ行き、アレックスと共にバレルでの練習をこなした。ショーンもつきっきりで指導してくれた。その様子を、日本から来たwowowのドキュメンタリー番組のディレクターがカメラに収める。彼は、私とブルライディングと、その周りの人々に興味を持ってくれたらしい。1年ほど前から取材の依頼を受けていて、今回ようやく実現した次第だ。だが、放映日すら決まっていない。というのも『長期戦』を、彼は前提としているらしい。彼にとっても、ユタはおろか、ロデオ自体が始めての体験とのことだ。

練習を済ませ、会場へ向かう。I-15を北上し、少し東へ向かった小さな町がプリーザント・グローブだ。ワサチ山脈のすぐ麓に位置するが、ソルトレイクからも遠くはない。そんな小さな町で期間は4日間、ブルライダーだけで60人が出場する、比較的大きなロデオが開催される。賞金額もそれなりに高く、実は私は正規のエントリーでは出場の機会を与えられなかった。それが先週末になってPRCAから連絡があり、エントリーに空きが出たので直前になって出場の機会を与えられた。ありがたい!
そんな予感もあった。というのは、この日ネヴァダ州リノでPRCAのブルライディングだけの大会がある。いわゆるランク上位の選手はリノへ向かい、またシーズンが深まるにつれスケジュールのやりくりが難しくなってくる。ケガも増えてくる。そうなると一度エントリーから外れた私のような選手にも出場の機会が回ってくる。
町のど真ん中でカーニヴァルが行われていて、ロデオ・アリーナもその辺りだろうと見当をつけ、ぐるぐると回るがまるでみつからない。見当違いと見切りをつけ、町の人にロデオ・アリーナの場所を聞くと、ハイウェイのそばにあるということだった。方向からして違っていた。急いでそちらへ向かうと、駐車場だけではなく道路にも、止まりきれないほどの車があふれている。スタンドには木曜日にもかかわらず、観客が押し寄せている。熱気が、すでに伝わってくる。
選手用の駐車場の場所を聞くと、誘導係の馬に乗ったカウボーイに「お前が出場選手?ウソだろ?!」と聞き返された。どうみても観光客と思ったのだろう。PRCAの選手証を見せると、信じがたい表情をみせつつも、「それなら、あのゲートの奥へ止められるよ」と道を通してくれた。

カウボーイ・クール
JS601 Cowboy Cool カウボーイ・クール(中央の白い顔)


車を下り、ロデオ・オフィスへ向かう。カメラが、そんな私を追ってくる。先週顔を合わせたバー・T・ロデオ社の人たちが、オフィスで待ち構えていた。エントリー・フィーは221ドル。私のブルはサブ・ストックコントラクターとして名を連ねていたJSロデオ社の601 Cowboy Coolカウボーイ・クール。名前からして粋だが、かなり良いブルだ、とショーンも言っていた。オフィスの前では、出場選手と関係者向けに食事が提供されていたので、ポークチョップのサンドイッチをひとつだけもらうことにした。そこへアレックスとチャドがやってきて、彼らもチェックインを済ませた。
食べ終えてからシュート裏へ向かい、カウボーイ・クールを探す。ヘレフォード種のブルと聞いたので、見つけるのは楽だった。というのも、そのブル・ペンにヘレフォード種は2頭しかいなかったからだ。しっかりとした角を持っていて、中型の部類にはいるだろう、それほど小さいブルではない。彼の顔を写真に収めていると、見たことのある若いカウボーイがこちらへ向かってきた。冬の練習会と3月のゲイリーのロデオ・スクールに参加していたカウボーイだ。会うのは久しぶりだった。話し始めると、どうやらブルライディングから距離を置いているらしかった。その3月のスクールのときにしたケガが元だという。「プロの世界にも行ってみたい、でもブルに踏まれたケガで、その意気が消沈してしまった」。おそらく相談相手を探していたのだろう、そこにたまたま私がいた。
正直、彼のような若い人から、そのような相談を受けるとは思っていなかった。立ち話とはいえ、30分近く話していたのではないだろうか?最後に、「ロープを巻くのに手伝ってくれる人はいるの?」と聞かれたので、「チャドもアレックスもいるし、たぶん大丈夫だと思う。でもシュート裏に来てくれるんなら、それはありがたいよ」そう言って別れた。
アリーナでは、オープニング・セレモニーが始まろうとしていた。私も、ギアバッグからロープを出して準備を始める。カメラが回されている事で、周りの選手や観客からもいぶかしげに見つめられる。「笑顔!」とアレックスにもからかわれる。が、私としては、することは普段と変わらない。ロデオ自体が始まり、ベアバックが終わったところで、ロデオ・アリーナの横にある野球場の芝生の上でストレッチを始めた。
時間をかけて、最後に呼吸を整える。寝転がり、夜空を見上げる。なんともいえない清々しさがあった。「よし」自然と言葉が出てきた。

出番を待つベアバック・ライダー
出番を待つベアバック・ライダー

シュート裏に戻ると、ルイのお母さんがやってきた。このロデオでルイはブルファイターとして出場しないが、家から近いということもあって、わざわざ私を見に来てくれたのだ。本当に、ありがたい…。『支えてもらっている』、その思いがさらに増す。
スパーもつけ、左手にはテーピングを巻き、出番を待つ。バレル・レーシングが始まるのと同時に、ブルたちが運ばれてきた。カウボーイ・クールは左のデリヴァリー。私の出番が4番目ということもあって、彼も早々にシュートに入った。ロープを巻きつけ、いったんブルから離れ、チャップスとヴェストも着ける。ここから一気に集中する。
ロデオ・アナウンサーの掛け声と共に、ブルライディングが始まる。アリーナ全体から歓声が上がる。練習仲間では私が最初に出る事もあって、チャド、アレックス、カーターらが声をかけてくれる。そのカーターにロープを締めるのを手伝ってもらった。試合前に話した若いカウボーイは反対側のシュートに来ていて、そこから私を応援してくれていた。
アリーナの中からも、ブルファイターのダレル・ディッフェンバックから大声で激励される。オーストラリア人の彼は、いつも私を応援してくれている。
腹、胸、背中、両脚、両足、そして右手。チェック・ポイントを確認して、ゴー・サインを出した。
勢いよく前に飛び出したカウボーイ・クールはすぐさま右へ強烈なコーナーを決める。とんでもない速さだが、自然と身体が動いた。ついていった。「よっっしゃ」と私は心の中で思ってしまった。そのまま右へ回る彼に対して、ほぼ完璧についていく。アウェイ・フロム・ザ・ハンド。左手で乗る私に対して右へ回るブルに対処する乗り方だ。2回転目まではついて行った。そして3回転目で、彼のリズムに対して私が遅れた。私の体勢が右に傾いてしまうと、彼はすぐさま左へと方向を変える。横向きになりながらも、しがみつくようにしてこらえるが、振り切ろうとする彼の蹴り足に、投げ出された。落ちてきたその後ろ足が、私の右足のスパーを踏みつけて行った。ダレルと、もう一人のブルファイター、ケリーがスッと合間に入ってくれた。駆け出しながら、つかんでいた土をたたきつける。また落ちてしまった…。

シュート裏に戻り、すぐにカーターとチャドの応援にいく。アレックスは最後だった。残念ながら、この3人とも落ちてしまった。カーターもプロでやっていて長い。チャドも実力者だ。揃って落ちてしまうのだから、これもブルライディングといわざるを得ない。
片付けをはじめると、ルイのお母さんがやってきて、「今日はがんばったじゃない!2秒じゃなくて4秒だったわよ!途中までは本当に良かったじゃない!」と励ましてくれた。ダレルとケリーもやってきて、惜しかったとはいえ、やたらとライドを褒めてくれた。たしかに、自分でも良い感触だった。このわずかの自信が次へとつながるが、甘さがあったことは否定できない。こういうブルのスピードの速さは、尋常ではないことはわかっているにもかかわらず、だ。反省材料ばかりが増えていく…。

自分のギアを片付けて周りを見渡すと、他のブルライダーは誰一人いなかった。いつものことだが、私は片付けるのが遅い。試合前に食べたにもかかわらず、やはりお腹は空いていた。『ストロベリー・デイズ』と名づけられたここのロデオの自慢は、地元のイチゴを使ったデザートだ。それを食べたくなり、辺りをうろつくが残念ながらすべての出店は閉まっていた。
今年で90回目を迎えたこのロデオ。観客の盛り上がりといい、その雰囲気といい、また帰ってきたい、と思わせるロデオだった。どれほどの甘さだったのだろうか、そのイチゴのデザートも食べ損ねた。「来年もまた出たい」そう思いながら、右脚の付け根に痛みを覚えつつ、闇の中にひっそりとたたずむプレリュードへと向かった。

 

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