Jin's Report 2011

□ □ □ ■ □ □ □ □ □ □

バックドロップ

第6戦 6月17日

【移動距離342マイル/約547.2km】
“Steamboat Springs Prorodeo Series”Steamboat Springs, CO. (PRCA)
“スティームボート・スプリングス・プロロデオ・シリーズ”
コロラド州 スティームボート・スプリングス

朝10時にディレクター氏らのホテルで待ち合わせ、そこからフリーウェイのI-80(インターステイト80号線)に乗り東へ。ワサチ山脈を抜けてからUS40(USハイウェイ40号線)に乗り換えて、さらに東へ進む。私にとってもこの道は初めてで、どのような景色が広がってくるのか、まるで想像していなかった。そして、予想を裏切らない、広大な景色が眼前に広がっていった。途中ヴァーナルという町を通り、ユタからコロラドに入って最初の町の名が“ダイナソー(恐竜)”だ。このあたりでは、恐竜の化石が多く発掘されているらしい。たしかに、走りながら見渡せるその景色は、いまでも恐竜が歩き回っていても不思議ではない、と思わせる。
このあたりまでは空も澄み渡っていたが、遠くに見えるロッキー山脈に近づくにつれ雲行きが怪しくなってくる。
昨夜寝る前にネットで調べた現地の天気予報は大雨、そして嵐の予報だったが、どうやら当たっていそうだった。とはいえ、ここで引き返すはずもなく、巨大な雨雲の中へ突っ込んでいった。

ダイナソー付近
ダイナソー付近

『バケツをひっくり返したような』という表現が最適な、激しい雨が車にたたきつける。周りの牧草地帯はすでに水に浸かっているし、河川の水量も明らかに増えていて、その流れが速い。ありがたいことに道路までは冠水していない。そのまま走り続け、いくつかの小さな町や村を通り抜けて、アメリカでも屈指のスキー・リゾート、スティームボート・スプリングスに入った。US40がそのまま町のメイン・ストリートになっていて、ロデオ・アリーナは道路を一本裏に入った、町のほぼ中心にあった。

会場のロミック・アリーナ
会場のロミック・アリーナ

“プロロデオ・シリーズ”と名が打ってあるように、この町では今週から8月下旬まで、毎週PRCAのロデオが開催される。今回私のサーキットで無いにもかかわらず、ここまで来た理由は、①もともとプリーザント・グローブのエントリーから外れていて、もしかしたら、来週まで試合がなかったかもしれない状況だったこと、②このロデオのエントリー時期が遅く、また大量のブルライダーを受け付けてくれるということで、エントリーから外れる可能性が低いこと、③とにかくブルに乗りたかった、ということがある。

Steamboat Springs Prorodeo Series
Steamboat Springs Prorodeo Series

ロデオ開始は夜7時半。まだ1時間以上ある。気前のよさそうな警備員のおじさんと挨拶を交わし、歩きながら駐車場の車に眼をやると、アリゾナ、ニュー・メキシコ、テキサス、イリノイ、ネブラスカ、ユタなどのナンバープレートの車が、コロラドの車に混じって並んでいる。雪はすっかり溶けて山肌が完全に見えてはいるが、やはり多くの観光客を引き寄せる何かがあるのだろう。
ロデオ・オフィスはアリーナから少し離れた所にあった。エントリー・フィーは101ドル。賞金額が低いせいか、この日集まったブルライダーは7人だけだった。当たったブルはJ・バー・J・ロデオ社の601 Pocket Aces ポケット・エイセス。受け付けの女性が、「ロデオ・アナウンサーがあなたの名前の発音を知りたいから、教えてって言ってたわよ」というが早いか、「ちょっと待ってて、彼を呼んでくるから」といって呼びにいってくれた。そのロデオ・アナウンサーとも面会し、日本から来ていることなどを告げてから私のブルを探しに行った。ブル・ペンにいたブルはどれも比較的大きい。黒い顔に白い三角の模様がある。ブルに対してこういうのもなんだが、体格がいい。顔を覚え、時間もあるので周りの風景を撮りに、アリーナの横にある広場へ行ってみた。
小さなステージが用意されていて、地元のカントリー・バンドがすでに演奏している。バーベキューの売店には人だかりが出来ている。雨は相変わらず降り続けているが、それでもみな構わずに楽しんでいる。私も、その雰囲気だけ楽しむことにした。


ロデオ前に広場で演奏していた地元のバンド。その奥がそのままスキーのゲレンデだ
ロデオ前に広場で演奏していた地元のバンド。
その奥がそのままスキーのゲレンデだ

バンドの演奏がひと段落して、シュート裏に戻り準備を始めた。シュート裏がそのままスタンドで覆われていたために、雨に濡れないで済む。ただし、寒さは防ぎようが無い。念のため、厚手の上着を用意しておいて良かった。そのうちに、あのロデオ・アナウンサーの声が響いてロデオの開始が告げられる。オープニング・セレモニーが始まる。前日のプリーザント・グローブのそれと比べると、ずいぶんと質素だった。
ともあれ、ベアバック・ライディングを見てから、雨も止んできたので私は車に戻り、そのそばでストレッチを始めた。気温が低いときは、余計に慎重になる。昨夜違和感を覚えた右脚の付け根は、やはり気になる。伸ばしていいものか、どうなのか?痛みの出るところで留め、あまり無理に伸ばす事は避けた。
そこへ一匹のキツネが顔を出してきた。目と目が合う。2メートルも離れていない。まったく私に気づかなかったのだろうか?声をかけると、逃げてしまった。
ちょうど一通りのルーティンが終わる頃、また雨が降ってきた。空を見上げるとキレイな虹がかかっていた。シュート裏に逃げ込み待機を決め込んでいると、雨が激しくなってきた。あたかも舞台の幕がステージに下りていくかのように、あの虹を雨が隠していく。ほとんど土砂降りの様相だ。それを感じて何人かの観客が、まだロデオが途中にもかかわらず席を立ち、帰り始めた。

じっとしていては体温が下がるので、狭いシュート裏を歩き回る。右のデリヴァリーから出るブルに対しての出方、ドライブ、左回りへの対応をシャドーのように繰り返す。スピードとパワーに負けることのないように、ついていくこと。それだけを念頭に置いた。バレル・レーシング前にブルがデリヴァリーに運ばれてくるが、ロープを巻くのは後にした。雨に濡れて、しっかりとしみこませたロージンが滑りやすくなる事は避けたい。ぎりぎりまで待つ。どのブルライダーも同じ思いだ。
バレル・レーシングが終盤になって、ブルもシュートに入る。ロープを巻きつけ、ハンドルの部分にはビニール袋をかぶせる。これでいくらか雨は防げる。チャップスもヴェストも着けて、あとは乗るのみ。私の出番は4番目。昨夜とブルのナンバーも同じなら、出番も同じだった。
コロラドに知り合いはいない。なので、残っていたサドル・ブロンコの選手にロープを締めるのを手伝ってもらった。実際にポケット・エイセスにまたがってみると、昨夜のカウボーイ・クールよりも大きい。大きなブルに対するときは、常に前へ前へといかないといけない。両足を固め、ゴー・サインを出した。

601 Pocket Aces ポケット・エイセス
601 Pocket Aces ポケット・エイセス

飛び上がるようにして彼が出る。ジャンプも高いが、蹴り足も高い。そのまま前へ進んでいく。着地のときに、ひきつけられないよう上体を伸ばす。そしてジャンプするときには彼の身体と平行になるように前へ出る。3度目のジャンプのあと左へ回る。このコーナーをカバーする。そしてそのまま左へ回る彼に対して、身体がロープから離れていった。まずい状況だ。さらに左に回られて、完全に振り切られた。後ろ向きに、さかさまになりながら、頭から落ちていく。
雨がたっぷりと染み込んだグラウンドが味方してくれた。首から落ちて、背中がそっくり丸くなり、裏返した「の」の字を描いたが、そのまま転がるようにして起き上がり、シュートに逃げ込む事ができた。名前も知らないブルファイター二人が、完璧に私を守ってくれていた。動画には写っていないが、シュートの中で声にならない声を発し、もがき、のた打ち回っていた。立ち上がるまでに、時間がかかった。

シュートから這い出すと、救急隊の女性が来てくれた。やはり落ち方がまずかったからか、頭や首を心配してくれたのだが、むしろ痛みがひどかったのは右脚の付け根だった。その4度目のジャンプのときに、まったく脚でブルを挟むことができなかった。右脚をひきずりながらギアバッグの前にあるベンチに座るが、しばらく動きたくなかった。動けなかった。昨夜よりも痛みは激しく、腫れているのがわかった。
チャップスやヴェストを外すまでに、どれだけ時間がかかっただろう。すべてのブルライディングが終わってからだろうか。立ち上がり、先ほどの女性の元へ行き、話しをすると、この脚の付け根の筋肉は、悪くすると治るまでに時間がかかるので、慎重に、とのことだった。3~4日は安静にすること、と厳命された。幸い、明日はロデオがない。アイシングをしっかりと週末の間続けるように、といってアイスバッグとテープをくれた。

片付けを終え、歩き出した。シュート裏はおろか、観客席すら空だった。
プレリュードまでが遠かった。
そんな私を、カメラは収めていた。


クリックで拡大、ドラッグが出来ます

  

CONTENTS

PAGE TOP