Jin's Report 2011

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フェイク

第8戦 7月2日

【移動距離54.2マイル/約86.7km】
“Oakley Independence Day Rodeo”Oakley, UT. (PRCA)
“オークリー・インディペンデンス・デイ・ロデオ”
ユタ州 オークリー

東西を山に囲まれた小さな町オークリー。今年のロデオは6月30日に始まり、7月3日(日)を空けて4日まで。賞金額もそれなりに高く、この週末はカウボーイ・クリスマスということもあって、ユタの選手だけではなく、こんな小さな町のロデオでもワールド・クラスのロデオ・カウボーイが参戦する。それを目当てに、近隣の小さな村や町からも観客が押し寄せて、スタンドはいつも埋まる。

オークリーまでの途中にあった大きなダム湖。州立公園にも指定されている。
オークリーまでの途中にあった大きなダム湖。
州立公園にも指定されている。

ショーンの家で練習してから来たのだが、渋滞予想に反して、道は空いていた。フリーウェイではなく、山の中を突っ切るハイウェイを通ったからかもしれない。初めての道だったが、その景色を見るがために速度を制限速度よりもさらに落として走ったほどだ。にもかかわらず、ロデオ開始2時間前に会場に着いてしまった。
会場の駐車場もまだ空いていて、バッキング・シュートのすぐ近くにプレリュードを止めることができた。シートを倒し、軽い昼寝をする事に決め込んだ。
7時少し前、とはいえ陽はまだ高い。車から起き出して、チェック・インに向かった。エントリー・フィー221ドルを支払い、出場選手向けの食事をもらい、外にあるテーブルに着いた。全部を食べる気にはならず、デザートだけ食べて、あとは試合後に食べることにした。
そこへ席を探していた観客が来て、相席となり話をしていると、やはり私のことを出場選手とは思っていなかったようだ。会話の終わりに、名前を聞かれたので告げると、「あら、私の近所にシミズさんていう日本人の方がいるから、それに似た名前をプログラムで探せばいいのね!」と微笑んでくれた。

選手に配られた食事。BBQポーク・サンドイッチとポテトチップス、デザートのピーチ・コブラー
選手に配られた食事。BBQポーク・サンドイッチと
ポテトチップス、デザートのピーチ・コブラー

シュート裏に戻り、私のブルを探しに行った。今日のブルはバー・T・ロデオ社の753 Go Daddy ゴー・ダディ。先週も顔を合わせたスタッフが、そのブルの場所を教えてくれた。白い顔に下向きの角、グレイがかった模様がわき腹にある。左のデリヴァリーから出る、とのことだった。徐々に選手たちも集まってきた。私もギア・バッグを出し、準備を始めた。練習仲間のピートやダスティンも来ていたので握手を交わし、近況を話し合った。
8時。オープニング・セレモニーがほぼ時間通りに始まった。ここでも女性の騎馬隊による演技、スポンサー紹介と続く。国歌斉唱が済んで、ベアバックが始まった。私は車へ向かい、その近くでストレッチを始めた。
右脚の付け根の状態は悪くない。2センチ大くらいのしこりがまだ残ってはいるが、痛みはほとんどない。ライドには影響はなさそうだ。それでも、やはり慎重にならざるを得ない。これ以上悪くはしたくない。アリーナではベアバック、タイ・ダウン、とテンポよく競技が進んでいく。特大の液晶スクリーンがそれを映し出してくれるので、ストレッチをしながらでも、その様子がうかがえた。サドル・ブロンコの出場選手がかなり多かったので、私も焦ることなくストレッチに時間を割いた。合間に、ロデオ・クラウンが親子で観客を楽しませていた。
ティーム・ローピングが始まろうとする頃に、私はメディカル・スタッフのトラックを訪れて、右脚から腰にかけて完璧にテープで固めてもらった。こうすることで、右脚の筋が裂けることを防ぐ。自分でするよりも、その専門の人がいるときは、やってもらったほうがいい。それからシュート裏に戻り、最後の準備にかかる。

753 Go Daddy ゴー・ダディ(右側の白いブル)
753 Go Daddy ゴー・ダディ
(右側の白いブル)

バレル・レーシングの前にブルが運ばれてきた。ゴー・ダディもデリヴァリーにいる。ロープを巻いて、時が来るのを待つ。
私が乗る前までに、何人かの選手がスコアを出していた。こういう流れは続くものだ。ロープを締めるのをダスティンに手伝ってもらい、動画はサドル・ブロンコの選手に頼んだ。シュート内でのゴー・ダディはおとなしかった。右手をかざし、私がゴー・サインを出す。ゲートが開くと同時に、彼が勢いよく飛ぶ。着地するとすぐに左へ向きを変え、さらに飛ぶ。蹴り足が高い。2度、3度それを繰り返し、4度目のジャンプが高かった。飛んでいるような感覚が私にはあった。前に行きながらも左へスライドするような感じで、横へ飛んでいる。前傾姿勢を保ち、返しの蹴り脚で自分のポジションに持っていくために両脚を外し、着地と同時にひざを曲げた状態で両足のスパーを戻す。彼の顔は右へ向いているが、これは完全にフェイクだった。左へ方向を変えた次のジャンプはカバーしたものの、次のジャンプで振り切られた。落ちた私が立ち上がり、数歩足を踏み出すとブザーが聞こえた。あと、わずかだったのか…?!
乗っているときの感触は確かに良かった。ヘルメットを取り、アリーナの中で立ち尽くしながら、ブルが退場するのを見届ける。ブルファイターのコーリー・ウォールが私のロープを拾ってきてくれた。ロデオ・アナウンサーが、私が日本人である事を観客に告げていたため、落ちたとはいえ、彼らから盛大な歓声を受けた。アリーナを去るときに一礼し、シュート裏に戻った。


シュート裏のVIP席も満員だった。
シュート裏のVIP席も満員だった。

動画を撮ってくれた選手に礼をいい、ベンチに座り一息入れた。あと数秒…。頭の中はそればかりだった。乗れていた、あの瞬間までは。ブルのフェイクに、ついていけなかった。
競技が終わり、花火が上がる。それを見ながら、片付けを始める。反対側のシュート裏にいたピートやダスティンが、すでにギアをまとめてこちらへ向かってきた。二人とも、私と同じくらいに悔しがってくれていた。もう一人のブルファイターのケリー・ジェニングスも私の元に来てくれて、ねぎらいの言葉をかけてくれた。
三人が三人とも、落ちこむなよ!と励ましてくれた。

プレリュードに戻り、ショーンに電話した。また、励まされた。落ちた報告しかしていない私を、彼はいつも応援してくれている。それに、応えたかった。
闇の中の細い道をフリーウェイへと向かう。その入り口手前にある無人のガソリン・スタンドで、一度車を止め、残しておいた食事を口にする。ライドを振り返る。
悔しさが、また込み上げる。

 

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