Jin's Report 2011

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ポケット

第16戦 8月5日

【移動距離52.5マイル/約84km】
“Mountain Valley Stampede”Heber, UT. (PRCA)
“マウンテン・ヴァレー・スタンピード”
ユタ州 ヒーバー

家から1時間ほどで行ける距離だったが、この日はショーンの家で練習していたこともあり、練習仲間のチャド・コールとアレックス・ダドリーの3人で会場へ向かった。
ロデオ名の通り、山間をぬけた谷間に位置する町で、都市であるソルト・レイクにも、周囲のスキー・リゾートにも近いこともあり、ユタ州内でも人気の町かもしれない。
選手用の駐車場にチャドの車を止めて、ロデオ・オフィスに向かう途中、選手向けに食事が提供されているテントがあった。数週間前のロデオでアゴを粉砕されて、いまだに咀嚼できないチャドは、水のボトルをもらうしかなかったが、アレックスと私はそこで食事をいただいた。

人だかりでにぎわう『House of Japan』
人だかりでにぎわう『House of Japan』

ロデオ自体はそれなりの歴史を誇るが、訪れたこの新しいロデオ・アリーナは完成してまだ2年目らしい。シュート裏には大型スクリーンまで吊らされている。この日のロデオのために、通常の売店だけではなく、さながらフード・コートのように飲食のブース(屋台)が軒を連ねていた。
その中の一軒に、『House of Japan』という看板を掲げて、この暑い中、鉄板に向かって焼きそばを焼いている女性がいた。その音と匂いに誘われるかのように、私は軒先に立ち止まってしまった。先に歩くチャドとアレックスも、まるで気付かずに、そのまま行ってしまったくらいだ。
「焼きそば!?」
この一言に反応してくれた女性は日本の方だった。ソルト・レイクから家族と共にヒーバーに越してきたという。毎週木曜日に開催されるヒーバーでのファーマーズ・マーケット(市場)でも出店されているとのことだった。さきほど食べたばかりの私の胃袋に、この焼きそばは入らない。かといって、ここを素通りするのも、惜しい。試合後、必ず食べに来ます!と約束し、その場を去り、私はロデオ・オフィスに向かった。

シュート裏 大型スクリーンも吊るされている
シュート裏 大型スクリーンも吊るされている

エントリー・フィーは221ドル、私のブルはダイアモンド・G・ロデオ社の079 Crushin’ Time Again クラッシン・タイム・アゲイン。大型のシャーレイ種のブルだ。ブル・ペンで彼を写真に収めてから、シュート裏で準備を始めた。
ダイアモンド・Gのシンディ・ギルバートに会うのも久しぶりだった。彼女ほど、ロデオ・カウボーイたちに愛されている女性はいないのではないだろうか?私にプロへのドアを開けてくれたのも、彼女のブルだった。それ以来、彼女も私のことを覚えてくれている。
「今日もいいブルに当たったの、知っているわよね?」嬉しそうに、そう声をかけてくれた。


ダイアモンド・G・ロデオ社の079 Crushin’ Time Again クラッシン・タイム・アゲイン 左側の白いブル
ダイアモンド・G・ロデオ社の079 Crushin’ Time Again
クラッシン・タイム・アゲイン 左側の白いブル

いつもどおりの準備を進め、ロデオが始まり、私はストレッチへ向かった。
サドル・ブロンコ・ライディングが終わりに近づくにつれ、シュート裏へ戻る。最後の準備を整えて、ブルがデリヴァリーに運ばれてくるのを待った。しばらくしてクラッシン・タイム・アゲインは左向きのデリヴァリーに入った。シンディから私が一番に出ることを告げられていたので、ロープを巻いて、いつでも出られるようにベストとチャップスもつけた。
「あとカウガール5人よ」バレル・レーシングが終わるまで、あと何人の選手が残っているか教えてくれた。その5人が走り終わり、私もシュートに立つ。バレルが片付けられている間に、シュートに入りロープを温める。シンディもフランク・ストラップを締め直した。私もロープを手に巻いた。
ゴー・サインを出すと、クラッシン・タイム・アゲインが小さく前へ出る。その時点で背中が丸まり、私は『ポケット』に座ってしまっている。まずい…。さらに大きく踏み出すように前へ跳ぶ。そして3度目のジャンプで左手がロープのハンドルから抜けてしまった。蹴り足が高く上がる。左手が握っているのはテイルだけだ。「藁にもすがる」ではないが、このときの私は、まさにそんな感じだった。次のジャンプであっさりと振り落とされた。仰向けに落ち、身体は勢いのまま転がっていく。立ち上がるが、歩が定まらない。ふらついたあと、ようやくフェンスに辿り着いた。シュート裏に戻っても、頭はぐらついていた。しかし、チャドとアレックスを手伝わないといけない。ヘルメットをカウボーイ・ハットにかぶり替えて、彼らの出番を待った。

先に出たチャドは7.8秒で落ちた。アレックスも途中までは完璧に乗りこなしていたが、8秒に届かなかった。3秒ほどの私とは、やはり違う。だが、『8秒』に届かなかった以上、記録上は、私と同じように扱われる。デイ・マネーも賞金もない。それが、ブルライディングの切ないところだ。間違いなく、この二人はいいライドをした。二人とも、それを知っている。私も含めて、この日出場したブルライダーたちも知っている。

ギアを片付け、駐車場へ向かうその途中、『House of Japan』はまだ開いていた。ロデオも終わり、手を休めていたあの女性は、私のために大盛りの焼きそばを焼いてくれた。
「3人で食べます!」と言ってしまったがために、彼女はフォークを3本つけてくれた。私は、チャドが食べられないのを忘れていた。そのチャドが運転する車の中で、私とアレックスは、その焼きそばをいただいた。
好き嫌いの多いアレックスが「美味い、美味い!」といって、がっついた。私も焼きそばは作るが、やはり鉄板で作ってもらった焼きそばは、格別に美味い。
ヒーバーで、焼きそば。ある意味、忘れられないロデオになった。
とても懐かしい味がした。

『House of Japan』にて焼きそばを焼いてくれた女性とそのご主人 焼きそば大盛りです!
『House of Japan』にて焼きそばを焼いてくれた女性と
そのご主人 焼きそば大盛りです!

 

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